法律の開始時期をさかのぼることができるのか

法律の適用時期を過去の日付にさかのぼって決めることはできるのでしょうか?
裁判例を参考に説明します。

北海道の川です。
昔は鮭が川をさかのぼっていたことがあったのかもしれません。

さかのぼり禁止

税金の法律においては、過去の日付にさかのぼって開始時期を決めることはいけないというのが通説です。
過去の分までさかのぼることを認めてしまうと、たとえば、国が現在よりもたくさん税金が必要として、税の徴収を操作することなどができるためです。
税を納める納税者を守るという意味においても、開始時期はさかのぼってはいけないことになっています。
このさかのぼり禁止は、納税者に不利になる場合のみともいわれております。

過去にさかのぼるのは認められる?

以前、国が5年以上保有していた土地を譲渡するときにかかる税率を低くする代わりに、所得税の他の税金と通算して、損と益を相殺することができなくするようにしました。
この法律の改正が、所得税の税金の計算期間の開始日である、1月1日から適用されるとしました。
この開始日を決めたのが、1月1日よりも後の3月になってから決めました。

所得税法の計算期間は1月1日から12月31日までですが、たとえば2月に土地を譲渡して損益通算をしようとしていた人が、実際に譲渡をして、3月になってから損益通算ができないことが確定したとなると、不公平感を感じるでしょう。
12月31日以前に損益通算できないことを知っていたら、12月31日までに土地の譲渡をしていたはずなのに、それができなかったということになります。

このため裁判となったのですが、結果としてはこのケースにおいては、国が勝訴して、納税者が負けました。

どういう場合はよいのか?

この裁判例においては、次のような理由で判断されました。
・3月時点では、1月1日までさかのぼっても、まだ所得税の納税義務が確定していない。
つまり12月31日になるまでに法律を決めることができれば、同じ年の1月1日まで法律の開始時期をさかのぼることができることを意味します。
・このようなさかのぼりは、納税者がいくら税金を納めるかを、あらかじめ予測できなくなってしまうが、今回のケースでは、前年の12月中に税制が変わるという内容(税制改正大綱)が新聞が報道しており、納税者が予測できる状況であった。
・不動産価格の下落に歯止めをかけることが、税制を改正する目的であったが、税制変更をあらかじめ知ってしまうと、事前に不動産を譲渡する人が増えてしまい、税制改正の目的に反してしまう。

などの理由で総合的に判断され、国の勝訴が決まりました。

このため、何ら理由なくさかのぼりが認められるという事はないですが、条件が整えば、さかのぼりも許されるということになります。

特に何か大きな取引を行う予定の方は、税制の改正(特に与党の税制改正大綱)には目を光らせておく必要があるでしょう。